書籍
墨線の軌跡 加藤光峰:時代を超越して今古代文字が視覚化する内面の世界
私の学生時代の頃は、甲骨・金文はおろか、篆書体ですら特種な書表現でした。これらを専門に自己の書表現のモチーフにしている作家も見あたらず、少数の篆刻家が書いたり刻したりの状態でした。そこで私は、他人が既に開拓した分野を煮つめるより、未開発の分野を耕して行く"生き方"の方が性格に合っていると考えました。なぜなら、これからの作家にとって、最も大切なことは 作家個々人の造形理念に基づく、書風と線質"が確立できなくては、書の将来の造形的宇宙は存在の意味がないと思ったからです。 以上に加えて、作家として耳を澄まし瞳をこらすと、古代人の無言の絶叫が、日常の生きざまが、そして人間の美意識の多様性までが感知されるからです。従って私にとっての想像力・洞察力・創造 意欲等は、常に古代文字群がかり立ててくれるのです。言葉を換えると、甲骨文・金文は他のどの書体よりも私の作家としての感性を激しくゆさぶり続けるのです。※本書より抜粋